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 安心 自信 自由 

              安心
安心の扉

 日々、CAPワークショップを通して多くの子どもたちと接し、私たちはその笑顔に元気をもらいます。
 子どもたちからの相談に耳を傾け、一緒に考え、子どもの力に心動かされます。
 活動を応援してくださるおとなの方々からのたくさんの励ましに、勇気をいただいています。
 そうなのです、私達の活動は、熱い思いを希望へと繋げてくださる多くの力にささえられ、共に思いの実現へと歩んでいく活動なのです。
        精一杯心を尽くして、CAPプログラムを届けてまいります。
 どうぞ、これからもCAPの活動への、CAPかながわへの
 ご支援をよろしくお願いいたします。
      (CAPかながわ 初代理事長 故草野順子
                  「熱い思い」より)BACK








 1.「子どもの心を  聴くことの大事さ」
(現)法政大学キャリア
   デザイン学部教授
   臨床心理士 
       宮城まり子 
                
プロフィール:法政大学 キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科教授 、臨床心理士、学生の教育・指導の傍ら、子ども・親・働く人たちのカウンセリング、心のケアを広く担当されています。

○もっと、聴いて欲しい
 かつて、小学生・中学生の子どもと親に同じ質問をする調査をしました。それは「話を聴く」ということについてです。子どもに対しては「あなたが親に話しかけた時、親は話を聴いてくれていますか」という質問をし、親に対しては「あなたは子どもが話しかけてきた時、子どもの話を聴いていますか」という質問をしました。子どもは約30%が「ハイ」、親は約90%が「ハイ」と回答していました。子どもと大人のこの大きな回答の差は何でしょうか。つまり、この結果からは、親は子どもの話を聴いているようでいて、子どもが望んでいるようには十分聴いていないし、子どもの心が満たされるような聴き方をしていないと言えるのではないでしょうか。
○どのように聴いていますか
 親はとかく子どもに一方的に話しがちです。例えば、「もう、宿題はしたの? 」「早くしないと遅れるわよ」「早くお風呂に入りなさい」(ようやく、お風呂に入ったと思うと・・・・・)「いつまで入っているの。さっさと出なさい」「テレビを消して早く勉強しなさい」などなど…。一方的に指示、命令するばかりではないでしょうか。たまに「今日はどうだった?」と子どもに話しかけても、子どもが話すそばから「だから言ったでしょう!だめねえ」と。これでは、子どもの話を聴いていることにはなりません。次第に子どもは聞かれても、親には話さなくなるでしょう。上記のアンケート結果の差もこうしたことから生じているのかもしれません。
○待ち上手は聴き上手
 だれでも、自分のことをありのまま分かってくれる人が欲しいものです。どのようなことであれ、まずは自分の話に耳を傾け心から聴いてくれる人が必要です。特に、心が苦しい時、悩んでいる時、つらい時、モヤモヤ、イライラしている時などには、聴いてくれる人を求めています。ですから、子どもが「あのねえ、・・・」と話したそうに言い出した時は、「なあに?」と子どもの方を見て、「さあ、聴くよ、何でも話してね」という姿勢や態度を示してあげることが大切でしょう。でも、こうした時、子どもはすらすらすぐに言うとはかぎりません。「早く、話しなさいよ」「こっちは忙しいんだから」などと、せかしてはだめです。悩んでいること、辛いことなどは、すらすら言えないものです。焦らず子どもを温かく見守り、じっくりと待ってあげてください。「待ち上手は聴き上手」です。
○聴くことの意味

 親が聴くことがなぜ大切かというと、裏を返せば、子ども自身に「話をする機会」を与えるからです。つまり、親が聴くことにより、子どもは心のなかに溜まっていることを、ありのまま親に話ができる機会が得られることになるのです。話す効果としては次のようなものがあります。
 @自分の話を聴いてもらえることは、親が自分に関心をもってくれていることなので、
  子どもの心は安心します。

 A話すことは=「放つこと」です。心の中に鬱積していたことが、放出されることで、
  気持ちが楽になり、ほっとし、落ち着くことができます。

 B子どもは話しながら、自分(抱える問題)を整理したり、まとめたりします。その結
  果、漠然としていた自分やその情況が見えてきたり、明らかになったりします。客観
  的にも見えるようにもなります。そこに、子どもなりの「気づき」が出てくる場合もありま
  す。 「もっと、こうすればよかった」「そうだ、相手はそう考えていたんだ」「今度からは、
  こうしよう」などと、話をすることによって見えてきます。そして、こうした「気づき」がある
  ことが、行動や気持ちに変化をもたらすきっかけにもなります。
○上手な聴き方とは

 子どもの話を聴く時にはまず、何よりも子どもの方へ視線を向けてください。家事をしながら片手間に聴くのではなく、子どもの目を見ながら向き合って聴きます。そして、 「ああ、そうなの」「まあ、そうだったの」などと返してください。また、「それは、大変だったね」「良く、頑張ったね」「それは、ショックだったよね」など、子どもの気持ちを大切にしながら「共感」的に聴いてあげるといいでしょう。子どもがここを一番分かって欲しいという部分については、「そうか、こういうことがあったのね」などと話をまとめ、「分かったよ」というサインをだしながら,熱心に聴いてあげてください。また、もし黙ってしまっても、ゆったり待ってあげてください。「黙ってないで何か言ったら?」などと催促したり、急がせないことも大切です。全部を十分に聴いたあとは、適切なアドバイスをしてあげることも必要でしょうが、決して押し付けたり、命令したりしないことが大切です。
○何でもありのまま話せることの大切さ
 何でもありのまま話せることはよい家庭の大切な条件の一つでしょう。「どうせ、話してもちゃんと聴いてくれない」、「下手に話せばすぐに怒られる、説教される」では、子どもは次第に家庭で自分の話をしなくなります。何か問題を抱えていても、親に相談しないで一人で悩み、苦しみ、その結果、精神的に不安定になり問題行動につながったりすることもあるでしょう。しかし、思春期、青年期には親にありのまま話すことはだんだん少なくなり、自ら問題解決しようと努力するようになります。そして、次第に、その相談相手は親から友人、仲間に移っていきますが、これは子どもの順調な発達の道筋です。
 ○子ども達の心の発達を大切に
 とかく成績、進学などに親は一番の関心をもちがちですが、並行して子どもの心の発達にも関心をもち、子どもの心を常に健やかに育てることを大切にする必要があります。他者に対して、優しく思いやりのある、配慮した言葉や行動がとれるためには、まず、自分自身の心が安定し、充実していることが必要でしょう。また、子どもが自分自身を大切にし、積極的に困難なことにも挑戦する勇気や意欲をもつためには、それを温かく見守り常に励ましてくれる存在と、困ったときには何でもありのまま話せ、相談できる身近な大人が必要になります。そのために、日ごろからお互いの心を聴きあう「互聴」を大切にしながら、家庭でコミュニケーションをとることを心がけてはどうでしょうか。
           
2006年11月1日発行「CAPかながわつうしん VOL3」に掲載

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 2.「電話相談員から   見えるもの」
「子どもネットコスモス」
   代表  八原 佳子



プロフィール:電話一本を引いてスタートした活動も来年で10年目を迎えます。その間、電話相談から子どもたちの置かれた状況がさまざまな事柄を通して見ることができました。事例を挙げながら子どもたちからのメッセージを思い起こしていこうと思います。事例はプライバシー保護のため、少し手を加えています。

  いじめはいじめられる側に問題があると言われていた10数年前、地方都市に住む女子中学生からの相談です。相談の電話の後、何度か住んでいる地方都市を訪れ、本人、保護者、学校の校長、学年主任の教師、いじめている子どもたちに会うことが出来ました。本人、保護者と学校の関係は最悪の状態でした。関係者から話を聞いて、私はいじめていた子どもたちにもそれぞれ温度差があり、対処している教師たちの間にも温度差を感じました。学校はいじめた子どもたちに反省文を書かせ、被害者の自宅にいじめた子どもたちを連れて謝りに行き仲直りの握手をさせたのです。結論として「いじめはあったが話し合い、いじめた子どもたちが謝って解決した」と学校は判断しました。

  大人が謝らせ、反省文を書かせ、握手させたという事実が残っただけだと私は思いました。被害者である女子中学生の辛い状況に誰も目を向けていませんでした。そしてそれを鋭く感じた被害者である女子中学生は「自分のことを分かってくれない」と周囲の人たちを拒否していました。解決のシナリオを完結することに目が行き、子どもの思いを大人たちは置き去りにしました。いじめた子どもにとっても反省文を書き、謝れば良いという経験だけが残りました。その後女子中学生は不登校を続け、精神状態も不安定で家庭内暴力や潔癖症と見られる行動などあらゆる困難な状況がその後10年近く続きました。

 
子どもたちが辛い時や問題が起きて困っている時、子どもの思っている事や考えている事を丁寧にゆっくり聴いていくことの大切さを私はいつも感じています。そして大人だから完璧にすべてを解決できるという奢りを持ってはいけないと思いました。分からないこともあるし、出来ないこともあることを正直に子どもに伝えることで、私は彼女と信頼関係を築けたと思っています。子どもは子ども特有の表現があり、子どものことは子どもに聞いて教えてもらうことも必要だと思いました。それが共に考え、生きていくことだと思うのです。

 ある方の紹介で出会った16歳の薬物依存症の青年の相談です。
高校を中退し、逮捕歴もあるとのことでした。しかし電話で話しても、お目にかかっても優しい心根が伝わってきます。親とも絶縁状態で孤立していました。言葉も少なく、「会いたい」という希望で会ってもぽつりぽつりと今の状況を話すだけでした。それでも別れる時は少しはにかんだ笑顔が見られました。彼は有名私立小学校に通っている2年生の時にいじめに遭い、誰にも言えず辛い毎日だったとのこと。いじめの加害者は幼稚園時代からの大好きな友だちでした。急に成績が下がったことで学校から保護者に注意があり、保護者は早速家庭教師を付けました。
 小学生にとっての辛い日々は勉強どころではありません。大人は目に見える成績という数値ばかりに目がいきがちです。まして学校から注意されれば尚更かもしれません。しかし子どもの変化には必ず理由があると気付かされます。その事を肝に銘じ、気を付けなければ子どもの本当の姿を見失うことになると思います。その後、彼は不登校と成績不良を理由に退学を余儀なくされ、孤独の毎日を過ごし、思春期に多くの問題を起こすようになりました。保護者が世間を気にして彼の存在を隠そうとしていたことが、彼の孤独を深めたようです。子どもは保護者のそうした態度を敏感に感じ取ってしまいます。
 

  小学生からの直接の相談は多くありませんが、保護者から相談してみたらと勧められた子どもが多いように思います。よく話を聴いていくと「自分は〜してみたい」という気持ちをどの子どもたちも持っていることに気付かされます。子どもたちの悩みや困っていることに序列はつけられませんが、それぞれ自分の立っている所で出来ることを考えています。同級生からレイプに近い関係を迫られている子ども。明日学校に一緒に行こうと誘われなかったらどうしようと悩む子ども。私学を辞めて公立に移りたいと必死に自転車をこいで話に来た子ども。友だちがいじめられているけれど、どうしようと悩む子ども。電話の向こうで、テーブルの向こうで一生懸命自分の問題を考えている子どもたちの姿は言葉に出来ないほどこころが震えます。 しっかり自分の思っていることを話せた子どもの行動力には驚かされます。周りの大人が導くのでなく、子どもが考えていることをサポートし、成長することを助けるのが大人の役目かもしれないと子どもたちから学びました。
 電話を下さる小学生の多くがCAPのワークショップで子どもネット・コスモスの電話番号を知ったという子どもです。CAPのワークショップに参加した子どもたちはワークショップを本当にしっかり受け止めていることが分かります。小さい頃からきちんと子どもの持つ権利を知ることの意義を知らされます。CAPワークショップに参加出来た子どもたちはきっと自分の中に小さな種を蒔いていると思います。きっといつかしっかり根を張ることを思うと楽しみです。

 自分の子ども時代を安心して過ごせなかった大人からの相談もあります。保護者から愛情を受けた記憶のない女性は自分の子どもとどう対して良いのか分からず自分を責めています。母親の虐待を避けるために子ども時代から自分の感情を殺して生きてきた女性は、自分の感情を感じてよいのか悩み苦しんでいる。父親からの性的虐待を受けた女性は誰も信じられず、父親の目を逃れて転居を繰り返している。みんなに共通しているのはそのような状況にいても自分を責めていることです。子ども時代の安心感は生きる力の源であり、人の根をしっかり張らせる栄養なのではないかと考えさせられます。今子ども時代の安心を取り戻してもらう手立てはないかもしれません。しかし私はその方たちが頑張って生きてこられたことをねぎらいたい気持ちでいっぱいになります。そしてその方たちの子どもの頃の姿を抱きしめたくなります。

 最近の相談で気にかかることは、学校での子どもの勉強の遅れや、友だちとの係わり方がうまくいかない子どものことで悩んでいる保護者が増えていることです。学校でうまくやっていけない子どもに辛く当たってしまうということも起きています。発達障がいという言葉でくくってしまう危険性はあるのですが、目を向けていかなければいけないと思っています。

 子どもネット・コスモスの活動はプロの意識は持ちながら、地域で共に生きるという視点を何より大切に思っています。専門家は専門家であるがゆえに、話を少し聴いただけでいろいろなことが判断出来るという利点が辛さの中にいる子どもにとっては「分かろうとしてくれない」と写ることもあるのです。解決するシナリオに沿って話を聴くのではなく、相談者の悩みの一点一点を大切に受け止め、一緒に悩み、考えていくことが必要だと思いました。そうしていくことで子どもたちの中に新しい芽が出て、少しずつ葉を茂らせていくのだと、子どもたちと話をしていて実感させられます。

           2007年11月1日発行「CAPかながわつうしん VOL.5」に掲載

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 4.「インターネット社会を  生き抜く子どもたち」
インターネット博物館
  代表   宮崎 豊久




 2007年8月、名古屋で痛ましい事件が起きました。「闇の職業安定所」と呼ばれるインターネットサイトで知り合った面識のない3人が、帰宅途中の女性を殺すというものでした。

 これを期に、マスコミ各社は「どのようにすれば、このようなインターネットを使った事件が防げるのか?」というコメントを私に求めてきました。残念なことに、このような事件は今も続き、そのたびに同じ質問を受けていますが、回答には戸惑っています。
 確かにインターネットを媒体と使った事件ではあるが、答えのすべてはそこにはないと思っているからです。

 私はこの現象を、社会的フィルタリングの崩壊と答えてきました。
 フィルタリングとは、ここ最近耳にすることが多くなったと思いますが、インターネット上にある、子どもに不適切なサイトを見えなくするサービスやソフトウェアのことを言います。
 インターネットが出現する前は、目に見えない社会的フィルタリングというものが存在していました。と、言いましても目に見えるシステムではなく、単純に言えば何をするにもやりにくい世界であったということであります。

 わかりやすく説明するため、現在ネットの問題になっている一例を、15年ほど前の世界に置き換えてみましょう。

 以上6つの例を挙げてみましたが、これらは15年前ではごく限られた人間しか手が出なかった分野であります。
 しかし現在はおとなに限らず児童でも簡単にその場に踏み入れてしまうことが出来てしまいます。特に注目しなくてはならないのは、児童が簡単に加害者になってしまうことであります。

 

 

現在

15年前

1

出会い系

出会い系サイトの他、通常の掲示板やWebチャットを使ったナンパなどもある。

テレクラがメイン。一般女性がテレクラの番号を知るのは雑誌広告や街頭で配布されるティッシュ。

児童への関与

参加は容易

児童の参加は難しい

2

オークション
(ネット詐欺)

オークションでは、空出品や盗品の販売など、素人でも詐欺行為が簡単に行える。

オークションシステムに素人が参加できない。

児童への関与

被害者・加害者共になりうる。

不可

3

宣伝メール

無限の迷惑メールが不特定多数の相手に送信されている。振り込め詐欺の被害にあう可能性もある。

郵便によるダイレクトメール。チラシを郵便受けに入れるなど、コストがかかるため、送信範囲が小さく有限。

児童への関与

被害者・加害者共になりうる。

家のポストに投げ込まれたエッチチラシは見てしまう可能性あり。ただしその後は具体的な行動をする事は難しい。

4

自殺相手探し

インターネット掲示板などで行われている。

基本的に不可能

児童への関与

被害者・加害者共になりうる。

不可

5

猥褻・児童ポルノ

インターネットでの閲覧、DVDなどが容易に手に入る。

特定の店や通販などでの販売

児童のへの関与

児童の閲覧は可能

基本的に不可能

6

盗撮

小型カメラ+ネット販売またはファイル交換の形で広く流通している。

小型カメラは高価で素人には購入できない。また販売ルートも地下的なもので素人では手が出ない。

児童への関与

被害者・加害者共になりうる。

被害にあう可能性あり


1. 出会い系サイトの実態は掲示板でやり取りされることが多く、分単位で更新されさまざまな人々が出会いを求めて書き込みを行います。この中には児童も含まれ、自分の下着などを販売するものもいます。

2. あるグループが児童の万引きする商品を買い取り、ネットオークションで売りさばいていた例があります。

3. ネットのお小遣い稼ぎとだまされ、児童が迷惑メールの送信業者を請け負ってしまう可能性があります。

4. 自殺したい者同士が励ましあい、生きることを考えるポジティブな掲示板も存在しますが、実際に場所を指定して集団自殺に参加してしまう例もあります。

5. ポルノはインターネット上に数多く存在します。大手ポータルサイトからもアダルトサイトを見ることが可能で、ビデオで閲覧していた時とは比べ物にならないくらい容易にポルノの閲覧が可能です。また、児童ポルノの需要は高く、被害者になるパターンも否定できません。

6. 小型カメラも安い金額で手に入るので、学校などのトイレなどに仕掛けることも可能であります。

 極端な例として捉えられがちであるが、このような罪を犯した人は、必ずといってよいほど、『魔がさした』とコメントします。
つまり、昔は覚悟を決めて踏み入れる場所であったが、現代社会では、非常に簡単に踏み入れることができてしまい、それゆえ善悪の境界線が見えにくくなってきていると感じています。

 子どもにインターネットを使わせるときに、注意しなければいけないのは、被害を受けなくすることだけではありません。この事例の様に簡単に実行者になってしまう可能性があるので、注意深く子どもの行動を見守る必要があります。

 これで、インターネットとはどのようなツールであるのか少しは理解していただけたと思いますが、インターネットを規制しても問題が解決することではないことに気がついていただけたでしょうか?

 すでに、子どもたちはいとも簡単にインターネットを自分のツールとして、使いこなしています。いきなり取り上げてしまってはトラブルになるだけです。大切なのは、普段からのコミュニケーションです。
 子どもたちは、このツールをうまく使いこなしますが、トラブルに巻き込まれると途端に困り果ててしまいます。実際に私のサイトに相談しにくる子どもたちも、「どこにも相談できない」「親には迷惑をかけたくない」などとメールに書いてきます。
 普段から、子どもたちがどのようなことを考え、どのようなことに興味を示し、そして何に悩んでいるのか影から見守っていてあげるだけで、大きな問題には発展しないと思います。
インターネットだからと言って、現実社会と切り離さず、常に自分の子どもの問題として扱えば、悲惨な事件に巻き込まれることはなくなるでしょう。
          2008年4月1日発行「CAPかながわつうしん VOL6」に掲載

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 3.「子どもを性被害  から守るために」
子どもを性被害から守る
クローバーキッズ協会
  運営委員 酒井道子



 近年、新聞やニュースでは子どもを性の対象としたレイプや誘拐、監禁などの事件が毎日のように報道されています。しかしこれらはほんの氷山の一角で、性的な被害を受けて苦しむ子どもたちは実はとてもたくさんいるのです。 

日本では性犯罪を「いたずら」と表現することが多いのですが、これは日本の社会の中に性的な事柄をタブー視し、否認しようとする集団的無意識が存在するからです。しかしこれは明らかに子どもに対する虐待であり犯罪です。性犯罪は子どもの心に深い傷を残し、子どもの健全な人格形成を阻害し、幸せな人生を狂わせていく危険性をはらんでいます。子どもは社会の宝であり、未来への希望です。私たち大人は個人としても社会としても子どもたちを悲惨な性犯罪から守っていく責任があります。

 私たちが子どもを性被害から守るためにはCAPの活動のような予防のための啓発活動が重要ですが、
すでに被害にあってしまった子どもたちを守るためにはどうすればよいのでしょうか?

子どもが大人に性被害を訴えても「そんなことある訳ない」「そんなのはたいしたことじゃない」「気にしすぎ」「そんな人の言うことを聞いたあなたが悪い」「もう忘れなさい」などと言われたら、子どもはそれ以上誰にも言えなくなります。そして心の傷は癒されず、信じてもらえないこと、誰にも助けてもらえないことにますます深く傷ついていくのです。

子どもたちを救うためにはまず私たち大人が子どもたちの性被害にはどのようのものがあるかを知ることが必要です。レイプや性的暴行はもとより、子どもが体を触られる、裸にされる、裸を見られる、裸の写真を撮られる、性的な行為を見せられる、無理に相手の体に触らせられるなどもすべて性被害です。時には「お尻を触られたくらいたいしたことじゃない」「レイプされたわけじゃないし、そんなに騒ぐほうがおかしい」などという人がいますが、それは間違いです。被害を受けた子どもにとってそれがどのような体験であったかが重要です。子どもが怖い、嫌だ、助けてと感じることはすべて心の傷に繋がる可能性があります。

また子どもの性被害というと私たちは女の子が男性から被害を受けることを想像しがちですが、男の子が男性や女性から被害を受けることもあります。そして被害を受ける子どもは赤ちゃんから高校生までどの年齢層にも存在します。 

 次にどのような人が加害者なのでしょうか? 加害者は初めから悪者の顔をしているのではありません。加害者は行きずりの見知らぬ他人の場合もありますが、よく知っている人や善良な市民に見える人、習い事の先生、スポーツの指導者、教師、宗教家など社会的に高い地位にある人や尊敬の対象である人の場合も多いのです。また親戚や兄弟、実親や養親の場合もあります。加害者は男性も女性もいますし、年齢も被害者と変わらない年齢の子どもから中学生、高校生、大学生、一般の社会人、老人まであらゆる年齢層にわたっています。

 このように見てくると子どもの性被害というのは従来考えられていたよりも多岐にわたり、被害者も加害者も男女を問わずあらゆる年齢層に存在することがわかります。では子どもが性被害について訴えてきたときに私たちはどのような態度をとればよいのでしょうか?

最も大切なのは私たちがあらゆる先入観を捨てて、被害を訴える子どもの言うことをありのままに受け止めることです。ショッキングな内容であっても大げさに驚いたり否定したりせず、とにかく子どもが言っていることを本当のこととして受け止めましょう。被害にあった子どもは多くの場合、この秘密を誰かに話したらひどい目にあわせると加害者から脅されています。子どもが勇気をもって話してくれたことをねぎらい、あなたが子どもの味方であることを伝えましょう。もう一つ大切なことは子どもに「あなたは悪くない、悪いのは加害者だ」ということを伝えることです。子どもは自分が悪いからこんな目にあったのだと自分を責めているかもしれません。こんな目にあった自分は汚れて価値のない人間だと思い込んでいるかもしれません。子どもの傷ついた自尊感情を回復させることが大切です。 

 次に子どもの安全を確保することが必要です。もし加害者が実親や養親、きょうだいや家庭の中に同居している人の場合は子どもを早急に保護する必要があります。この場合は児童相談所に24時間電話で相談ができます。児童虐待防止法により子どもへの虐待を知った人は誰でも通報の義務があるので、虐待を受けている子どもが他人であっても通報してよいのです。また加害者が他人の場合はまず怯え、傷ついている子どもをあたたかく包みこみ安心させることが大切です。多くの場合、子どもは加害者が不意に現れるのではないかとおびえています。悪夢に苦しみ、夜寝るのを怖がります。年齢にかかわらず、お母さんが一緒に寝てあげるなどの具体的なかかわりが役に立ちます。また加害者が学校の教師や習い事の先生などの場合は安全が確保されるまでは休ませるなどの対応が必要になります。

このように被害を打ち明けられた大人がすぐに対応することも重要ですが、なるべく早く専門家による対応や治療を受けることも重要です。警察に被害届を提出し、刑事事件として立件し、加害者を処罰してもらうためには証拠が必要です。特にレイプされた場合は医学的ケアと同時に証拠を採取してもらうことがその後の裁判に役立ちます。レイプに限らず、子どもが性被害を受けたら婦人科、小児科、精神科などを受診したり、児童相談所や子どもの相談にかかわる機関に相談して心身のケアを受ける必要があります。子どもが性被害にあった場合、親もまた傷つき、動揺し、どうしたらよいかわからなくなることが多いのです。しかし親が家庭で安定して子どもを受け止めていくことが子どもの回復にとって重要なので、親自身がカウンセリングをうけることも必要です。 

 残念ながら日本にはまだ24時間子どもの性被害に緊急に対応し、一か所で医学的対応、司法的対応、心理的対応、福祉的対応ができるシステムはありません。

私たちはこのようなシステムを日本に構築することを目的として、「子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会」を2007年に立ち上げました。発起人は小児科医、精神科医、臨床心理士、子どもの人権を守る活動家、インターネットと子どもをテーマとして活動し、インターネットを媒介とした子どもの性被害に詳しいNPO法人代表者などです。私たちはそれぞれの仕事を通じて悲惨な子どもの性被害の実態に直面し、子どもの性被害に対する日本の制度や教育の立ち遅れを実感しています。
 このような現状を変えていくためには子どもにかかわる社会や大人の意識を変えるための啓発活動とともに、子どもに関わるあらゆる分野の専門家のネットワークづくりが必要だと考えています。具体的には医師、看護師、臨床心理士、保育士、教師、情報関連の専門家、福祉施設関係者、子どもの性被害に取り組むNPO関係者、警察関係者、行政・司法・立法関係者などとの連携です。そこで情報を共有して、現場で感じている問題点や必要な変革をまとめ、国や社会に向けて発信していくことで、実効性のある制度やシステムの構築につなげていきたいと考えています。
 また上述したように、もし子どもがレイプされたり、性器に外傷を負ったりするような被害を受けた時には証拠を残すことが加害者を逮捕し、罰するためにぜひ必要です。しかし日本ではまだ子ども用の性被害証拠採取検査キットがありません。これを製品化して全国に普及させることも緊急の課題であり、私たちは実現に向けた取り組みを始めています。

子どもを性被害から守るクローバーキッズ協会

2007年4月設立。
性虐待を受けた児童・障がい児を緊急に救済する24時間対応システムを構築することを目的とし、調査.研究、対応マニュアル制作、普及啓発活動を行っています。
また子ども用の性被害証拠採取検査キットの調査研究を行い製品化と普及を目指して活動しています。
広く国内外の関係機関との情報共有、活動協力と連携と課題解決に向けた広報活動を行っています。
           FAX 03-6368-5288
           e-mail : cloverkids24@gmail.com


  
       2009年5月5日発行「CAPかながわつうしん VOL8」の掲載文を
         今回一部加筆修正

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 5.「子どもを慈しむ心」
(現)南大野太陽の子
 保育園  園田 巌



−増加し続ける虐待−

 先日ある会議に出席した折、同席した児童養護施設の施設長から深刻な話を聞きました。私が保育所における最近の虐待事例を報告した後に、その施設長は、「今保育所が悩んでいることは、私たち児童養護施設の関係者が以前に悩んでいたことと同じだ。」と言うのです。言うまでもなく、この発言は私にとって非常にショッキングなものでした。入所型施設である児童養護施設において過去に事例として報告されていたものが、現在では通所型施設である保育所で問題となっているということですから、子どもを取り巻く社会環境は、かなりの速さで憂慮すべき方向へ向かっているということになります。それでは、10年後、20年後は一体どのようになっているのでしょうか。それとも、そのようなことを心配するのは、杞憂というものなのでしょうか。

 
ここ数年来、保育所で扱う虐待件数は確実に増加しています。また、虐待とまではいかないにしても、グレーゾーンの事例や放置しておけばやがて虐待に発展する可能性がある、いわゆる「虐待予備軍」と呼ぶべきものも数多く存在します。それらの具体的な事例に触れるたびに、「なぜ虐待が起きてしまうのであろうか。」という極めて単純な疑問にぶつかることがあります。

 乳幼児の虐待の場合、心身が未発達なために、急激に危機的状況に陥ることが想定されます。その場合、まずは子どもの命を守るということが最優先になりますから、児童相談所が中心となり、緊急一時保護や親子分離などを実施することになります。しかし、現在、養護施設の入所児童の多くが虐待に起因する入所であることや、児童相談所への虐待通告件数が年々増加していることなどを考えると、その母数を減らす取り組み−すなわち長期的視点での虐待予防を真剣に考えていかなければ、その対応にもやがて限界が生じてくるようになってしまうのではないかとも思われるのです。
 
 「子育てに悩んでいた…」、「しつけのつもりで…」、「泣き止まないから…」、「言うことを聞かないから…」、「無性にイライラして…」など、確かに子育て家庭には多くのストレスが存在します。また、実際にアンケートを取ってみると、「虐待の報道に触れるたびに、他人事とは思えない」と答える母親もいます。無論様々な子育て支援策を講じて、それらの悩みやストレスが解消されることもありますが、年々増え続けている深刻なケースの場合、その視点だけではなかなか解決に結びつかないというのが実情です。

−慈しむ心を育てる−
 親が子どもを慈しむ、あるいは人が人を大切にするといった心の原点は、乳幼児期にあると言われています。
 子どもは、快・不快をはじめとする様々な感情を、全身全霊で親にぶつけてきます。親は、そのことに戸惑いを感じながらも、あやしたり、言葉をかけたり、時には代弁をしたりしながら、子どもに対して丁寧に返していきます。この一連の行為−すなわち、受け止めてもらう経験の積み重ねにより、子どもは正しい自己認識ができるようになり、やがて自分で自分を受け止める力(自己受容)の基礎が培われていくようになるのです。

 受け止めてもらえる経験の積み重ねは、「自分が大切な人間である」という意識にもつながっていきます。この意識は、自分ひとりでは持つことができず、他者から大切な存在と思われることにより、はじめて確認することができます。子どもは、自分が大切な存在であるということを実感すると、次に大切に思ってくれる人を大切にしたくなります。そして、他人の気持ちが分かるようになったり、共感性が生まれたり、やがては愛すべき対象を慈しむようになったりすることができるようになるのです。更に、この一連のプロセスの中で道徳心の基礎が形成されるとも考えられています。
 
 
また、近年、アタッチメント(愛着形成)の研究が進み、虐待と愛着形成不全の関係性がクローズアップされるようになってきました。愛着の型にはいくつかの種類がありますが、約70パーセントにおいて愛着の型の世代間伝達が起きるといわれています。つまり、仮に不安定な愛着の型を示す親子がいたときに、次世代においてもその不安定な型が伝承される可能性が高くなると考えられます。つまり、虐待は不幸な世代間連鎖を引き起こす可能性があるのです。

 乳幼児期は、基本的愛着が育つ臨界期であり、とても重要な時期であるといわれています。保育所は、この大切な時期の子どもたちを預かっているのですから、その責任は重大であると言わざるを得ません。ごく当然のことですが、とにかく今目の前にいる子どもに目を向け、信頼できるおとなとの適切かつ安定的な愛着関係を構築していくこと、そしてその重要性を一人でも多くの人に伝えていくことが、長期的予防の視点においては、結局のところ近道になるのかもしれません。

          2009年11月25日発行「CAPかながわつうしん VOL9」に掲載

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「ノーバディズ・ パーフェクト を実施して」
 ファシリテーター
     坂田 裕子


 今回、寄稿いただいたノーバディズ・パーフェト ファシリテーター坂田裕子さんは、婦人会館で相談員、横浜市南区地域振興課で親支援、横浜市戸塚区「親子の広場 とっとの芽」などで活動をされ、子育て中の保護者の方にいつも寄り添ってこられました。現在は、ノーバディズ・パーフェクト ファシリテーターとして活躍されています。


 親子の広場では、母親たちから子育ての「楽しさ」より「疲れる」「イライラする」声をよく耳にします。日本では地域社会の共同性が希薄な中で、子育ては母親のみの営みとなっています。それが密室での孤立した子育てとなり、自信のなさや不安やあせり、過剰な強迫観念へと母親たちを追い詰めているように思われます。

 カナダでは親たちが自信を持って子育てができるように0歳から5歳までの乳幼児を持つ親を対象に作られた親支援プログラム「ノーバディズ・パーフェクト」が1987年に始まりました。
 このプログラムは少人数のグループで学び合う参加型プログラムです。親が子どもの発達や子育てについて学び合い、育児情報を得ながら自分の育児に自信を持ち、支え合えるようにと考えられたものです。
 6回から8回のセッションはファシリテーターが各回のテーマに添ってテキスト(『Nobody's Perfect』「親」「こころ」「からだ」「安全」「しつけ」家庭リソースセンター編集向田久美子訳 ドメス出版)を使いながら参加者中心に進めていきます。
 テキストのはじめに『完璧な人はいません。完璧な親もいなければ、完璧な子どももいないのです。私たちにできるのは最善をつくすことだけであり、時には助けてもらうことも必要なのです』とあります。参加者はまずこの言葉にホッとさせられるようです。
 「親」編では「自分のために時間を作りましょう」「支援を求めましょう」「他の親たちと交流し、助け合いましょう」「親には話のできる仲間が必要です。子どもにも一緒に遊べる仲間が必要です」など母子密着に陥らないことが強調されています。

  プログラムは親子別室で実施し、親たちは集中して学び、子どもたちは楽しく遊べるように共に良い時間を過ごすことをねらいにいれています。又参加者にとって安心、安全な場所になるための約束事を皆で話し合って決めます。そして日頃の親たちの悩みや気がかりなこと、関心事などを一人ひとりが出し、それを基に皆で話し合いながら各回のテーマを決めていきます。
 参加者から出される「家だと泣いてばかりで一日抱っこしている」「離乳食を作っても食べない」「夜もなかなか寝ない」「イヤイヤばかりでいうことをきかない」「オムツが取れない」「兄弟げんかばかり」「怒ってばかりでいやになる」等の日常的な子育ての悩みの中には、様々な問題(パートナーの事、親や近隣との人間関係、家族の健康、子どもの発達、仕事や自分自身の事・・等など)を重複して抱え、孤軍奮闘している母親たちの姿が見えてきます。
 参加型プログラムは親自身の知識や経験を土台にしながら、グループでの学び合いを通して、自分自身に合った子育てや生活の仕方などを見つけていきます。参加者の多くは回を重ねるごとに表情や話し方に変化がでてきます。そして徐々に自信のついてくる様子が見受けられます。 又グループとしても仲間意識が育ち、終了後は同窓会の開催や事後グループへと繋がっていきます。
 プログラム終了後のアンケートの多くに「気持ちが楽になった」「自分の子育ての仕方に迷いが少なくなった」「子どもが落ち着き、私も落ち着いた」「回を重ねるごとに自分を振り返り、生活に生かす事が増えた」「皆が悩みながら子育てしていることを知り安心した」「親としてしっかりしなければと思いすぎていた」「人と関わる事に前向きになれた」「悩みを共有し繋がりが出来た」等と書かれています。
 「ノーバディズ・パーフェクト」は親同士が協力しあい、自分たちで解決していく力をつけていく効果的なプログラムであることをファシリテーターとして実感すると共に自分自身の学びの場とも成り得ています。 ここでの繋がりや学びが一過性で終わらず、家族同士の連携や、地域でのサポートネットワークが広がっていけるような関わりをしていきたいと思っています。


 ==お勧め図書==

『Nobody's Perfect 〜カナダからの子育てメッセージ〜』
       家庭リソースセンター編集    向田久美子訳  ドメス出版

『ノーバディズ・パーフェクト別冊 FATHERS/父親』 
              伊志嶺美津子編   向田久美子訳  ドメス出版

『地域から生まれる支え合いの子育て』
                           小出まみ著  ひとなる書房

『社会で子どもを育てる−子育て支援都市トロントの発想』
                           武田信子著  平凡社新書

     お問い合わせ先:特定非営利活動法人「子ども家庭 リソースセンター」
 HP



            2013年6月1日発行「CAPかながわつうしん VOL14」に掲載


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